欠片のような、夏の思い出
もう次に体験することはないであろう、
自分の生活をする街で
五輪競技が開催された、8月初旬。
競技実施の数日前に撮影したものです
何十年か経って
「あのとき、俺は何をしていたんだっけ」
と自問したとき、答えが思い浮かばないことだけは
避けたいと思っていた。
もちろん、競技会場に行くことは考えていなかったが。
よかった。
「あそこにいたよ」と言うことができる。
同じ時期、大倉山ジャンプ競技場で開催された
サマージャンプ大会の取材をした。
各大会とも無観客での開催でした
夏の五輪の只中に、冬の競技の取材。
記憶にとどめるのにふさわしい設定だ。
記録的な猛暑で、
立っているだけでも身体にダメージを覚えながら
そこにいた経験は
身体の記憶とともに自分の奥底に刻みこまれることだろう。
あの日差し、あの暑さ、あのまぶしさ。
冬真っ只中のシーズンにこの地に立つたび
猛烈なコントラストが頭に描かれるはず。
それもまたいい。
もちろん個人差はあるが、
出場したジャンパーたちも、東京五輪の選手たちの活躍は
刺激になると話していた。
特に"レジェンド"葛西紀明は熱っぽく語っていた。
競技経験が長く、自分の肉体との対話を長くしてきた人ほど
他競技の「すごみ」を感じやすいのかも知れない。
コロナ禍による東京五輪の1年延期で
2022年の冬の五輪までは既に半年を切っている。
大倉山の空に描かれたジャンパーたちのアーチは
北京への道しるべだ。
高梨沙羅はじめ女子のトップ選手たちは海外遠征、
男子のエース、小林陵侑は調整優先のため出場しなかったが
それぞれの選手たちの、
心の奥に燃える決意の灯は垣間見えた。
8/7大倉山チャレンジカップの優勝は佐藤幸椰(中央)
士別→名寄→宮の森→大倉山2連戦という5試合で4勝という充実ぶり
同大会の女子の部の優勝は小林諭果(中央)
前日まで高校3年生の桜井莉子の後塵を拝していたが
この日は1回目3位から逆転優勝。
久々の優勝に直後には涙も見せた
「そこにいた」「それを見た」事実もまた
記憶に刻むに値する。
半年後、
今とは30度以上は気温差のある札幌で
どんな思いで「あのときのこと」を思い出すのだろう。
そう言える経験ができたことで
まずまず納得している自分がいた。
数日後の大通公園。
まだ五輪旗や各国の国旗がはためいていたが
「祭りのあと」の空気感の中
着々と後片付けが進んでいた。
身を持って覚えることできた、名残惜しさ。
「あの夏の思い出」と言うには
欠片のような小さな体験だけど
これまた味わえて、少し安心した。