tvhテレビ北海道

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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

その空は続く

冬から春へと移ろう季節。

それは、別れと出会いの季節でもある。

冬のスポーツ、スキージャンプのシーズンが終わりを告げる。

そこには、競技生活に別れを告げる者たちがいる。

    

3月24日に行われた

「伊藤杯シーズンファイナル大倉山ナイタージャンプ大会」。

ナイターJ.jpg

そこでは毎年、その大会を持って現役を引退する選手たちの

最後のジャンプと、引退セレモニーが行われる。

かつて、原田雅彦、岡部孝信といった金メダリストや、

女子ジャンプのパイオニア・山田いずみといった

国内ジャンプ史に名を残した選手はもちろん、

競技成績としては彼ら、彼女らに及ばずとも、

スキージャンプに情熱を注いできた幾多の選手たちが

みな同じく、来場したジャンプファンに見送られ、

競技から去っていった

「卒業式」のような大会である。

   

今年、競技後のセレモニーの場に立った引退選手は8名。

引退セレモニー.jpg

それぞれの選手たちに物語があり、

その第一章が、この日を持って幕を閉じた。

ただそれはもちろん、第二章の始まりでもある。

   

彼も、その一人。

山田将平.jpg

山田将平選手。29歳。

岩見沢市の中でも山深い、美流渡(みると)の

地元の人の手作りのジャンプ台で、小1からジャンプを始めた。

トリノ五輪代表の伊藤謙司郎、

バンクーバー五輪代表の栃本翔平と同い年。

ジュニア時代はライバルとして鎬を削った。

北翔大4年のシーズンに、

国内の主要大会でも一ケタ順位を記録するなど、成績がグンと向上。

ただ、就職する警備会社にはスキー部はなく、

卒業後にジャンプを続けられるか危ぶまれる状況だった。

このまま終わって欲しくない、との気持ちから、

その年のTVh杯ジャンプ大会の実況で

「卒業後もジャンプが続けられれば、

さらに成績を伸ばせる選手ですよね~原田(雅彦)さん!」

「そーですねー。頑張って欲しいですねー」

というやりとりを、原田さんと示し合わせて

他の選手より強めにしたことを覚えている。

その年の成績は、TVh杯過去最高の12位だった。

   

幸いにも、職場の上司がスポーツに理解のある人で、

所属先に職場の名前を貸してくれ、彼は現役を継続することができた。

さらにその上司は社内で寄付を募ってくれて、

用具面のサポートもしてくれた。

職業柄、夜勤もあるタフな勤務環境とトレーニングを両立し

大会に出場していたが、その会社を2年で退職。

26歳にして、専門学校に入り直す。

「ゆくゆくは、選手をサポートする側に行きたいと以前から思っていたんです」

鍼灸師とスポーツトレーナーになるための勉強と競技を両立する道へと進んだ。

会社員のとき以上の忙しい毎日となったが、

それでもシーズンに入ると、時折試合には出場した。

「ぶっつけ本番ですけど」と言いながらリフトに向かう姿を見ると、

「いい向かい風吹いてくれないかな」と心の中でつぶやいていた。

本当に競技場で短く会話をするだけの関係だったが、

いつも柔らかい笑顔をたたえたその居住まいに

「ジャンプが好き」という気持ちがじわじわ伝わってきて、

心に残る存在だった。

時間が経つごとに、両立は難しくなることはわかっていたので、

最近はスタートリストに名前を見つけるだけで安心していた。

   

順調にいけば、この春に国家資格を取り

専門学校を卒業するはずだったので、

会場で本人から引退を聞いて胸に湧いたのは、

「残念」より、「無事、次の進路が決まってよかったね」だった。

「実は3月1日から、スポーツコンディショニングを行う

治療院のスタッフになって、もう働いているんです。

長くジャンプの全日本チームのトレーナーをされている院長さんのもとで、

今後はジャンプ選手の身体のケアにも携われることになりました」

と、晴れ晴れとした表情での報告を聞き、

「じゃあこれからはある意味、現役選手よりも長く、

ジャンプに関わることになるんだね。おめでとう」と、祝福した。

「僕、自分で飛ぶのももちろん好きでしたけど、

人のジャンプを見るのも好きなんです」

という彼には、天職だろう。

更に、2月には父親になった、との報告も。

新たな家族とともに、次なる「飛翔」のときを迎える春となる。

  

スキージャンプという競技は、人生と重なる。

より高く、より遠くへ飛ぼうと、誰もが力を尽くす。

時に向かい風を受けて大飛躍を遂げ、

時に追い風に叩かれ失速し、

時に転倒し、深い傷を追うこともある。

そして、どんなに遠くに飛ぼうとも、

必ず地面に降りるときが来るのも、人生と同じだ。

    

貴方が見た空の景色は、

いつかは必ず地上の景色に戻る

貴方が飛んだ空の心地よさは、

いつかは必ず、地上の日常に戻る。

   

でも、空はつながっている。

次の人生で貴方が見上げる空は

貴方が飛んでいた空とつながっている。

この春、新たな空へ飛び出す全ての人へ。

思いっきり、心地よく、

碧く澄んだ空へ、羽ばたいてください。