15の春
「あのときはお世話になりました」
過去に、街中で何度かかけられた言葉だ。
声の主は、高校生や、その親御さん。
「高校入試の番組をやっていましたよね」
というのが、その次に出てくる言葉である。
確かにここ数年、
「北海道公立高校入試解答速報」の進行を
仰せつかっているが、
1年の中で、たった1日だけの放送。
しかも、ごくシンプルに、生放送の進行をしているのであって、
受験生の「お世話をした」という内容の仕事は、全くしていない。
「お世話になりました」という印象を
番組を見た側の彼ら、彼女らが持つのは、
そのときの心境が、
それほど特別な状況であったことを表していると思い、
ちょっと切ない気持ちになるのと同時に、
そんな緊迫した時間を潜り抜け、
平穏な今を過ごしているのだと感じて、
とてもほほえましく、穏やかな気持ちになる。
「あなたの人生の中で、
これまでで一番の"一世一代の大勝負"の1日は?」
と聞かれたら、
迷いなく「高校受験です」と答える。
大学入試も、アナウンサー採用試験も、
新人のときのニュースの「初鳴き」も、初めてのスポーツ中継も、
転職を決めた日も、
これには及ばない。
「この1日の成否で、
俺のその後の人生は決まってしまう」
という追い詰められた気持ちと、
「どんな結果になっても、
他の誰のせいにもできないのだから、
絶対に、悔いは残さない」と決意して過ごした
あの1日の時間の密度の濃さは、
その後も、今の今まで経験がない。
そしてできれば
もう2度と、経験したくもない。
だから毎年、彼ら、彼女らには、
特別な感情が湧く。
15歳で迎える、一世一代の大勝負。
「まだ15歳じゃないか」と、
大人がしたり顔でいうなかれ。
15年しか生きていない人にとっては、
他に比較のしようのない、
まぎれもない、人生最大の勝負なのだから。
今月7日の、今年の担当時には
「
ひとりでも多くの15歳に
"サクラ咲く"が届きますように」
という願いを込めて、
今年の進行の際には
「さくら色」のネクタイを締めた。
君たちの頑張りに対して、おじさんができることは、
それぐらいしかなかったけど、許してね。
...と言っていたら、先日、
とんでもないものが見つかった。
高校時代の、生徒手帳。
だいぶ色褪せてはいるが、
うっすら「生徒手帳」と読める。
あの「人生最高の大勝負」を経て入学し
3年間を過ごした証が、
30年以上もの間、こんなに近くにあったとは。
それにしても、
決して明るいだけではない
複雑な感情がうごめく青春を過ごしていたことが
如実にわかる顔をしている。
15の春を迎えている全ての人へ。
悩むこと、しんどいこと、
これからも、いろんなことはあるけれど、
人生の中で、きっと特別な
一度しかない春のはずだ。
その時間を、思いっきり味わってほしい。
35年前も経つのに、
あのとき以上の春を知らない
おじさんからの、贈る言葉です。