守破離
初夏という言葉に実感が湧かない、
肌寒い宮の森のグレーの空に
若者たちが飛翔していく。
今週初めからから札幌で行われていた
スキージャンプの全日本合宿、
その最終日の16日。
ジャンパーたちにとってこの時期は
短いオフを終えた、新たなシーズンの入り口。
ソチ五輪団体銅メダリスト、竹内択(北野建設)や
世界選手権女子個人NH銀メダリスト、
伊藤有希(土屋ホーム)といった
エース級の選手の姿もあるが
集まったメンバーの多くが
中学生、高校生を含む、ジュニアの選手たち。
初々しさが、新緑の宮の森の風景とマッチする。
指導の中心は、
全日本ジャンプチーム・横川朝治ヘッドコーチ。
バンクーバー五輪後にヘッドコーチに就任し、
ソチ五輪での日本ジャンプ界16年ぶりのメダル奪還につなげた。
終始、穏やかな表情と、柔らかな物腰と口調。
懐の深さがにじみ出る、
選手たちのよき「兄貴分」との評判通りの指導風景。
試合会場では姿を見ていたが、
じっくり話を聴けたのは今回が初めてだった。
「今回はシーズン初めの最初の合宿で
ジュニアの選手が多く参加しているということで、
彼らが今までやってきた『国内での試合』の方向性と、
『ワールドカップで勝つため』の方向性との
誤差を確認し、その差を埋めるきっかけを作る、
ということをテーマにしました。
国内では、ジャンプにとって有利な
向かい風の中での試合が多い。
でもワールドカップなど、世界での試合は
不利な追い風でやるのが普通。
違う前提の世界に進んでいく若い選手たちに、
日本チームに入っていく上での
方向性と現在の課題をまず確認する、
という意味合いがありました。
竹内など、世界を知っている選手には、
身を持って、見本を示すという役割もしてもらいました」
横川コーチの理念の根底にあるのは
「日本人の優位性で勝負する」ということ。
「ヨーロッパでジャンプといえば、スピードとパワー。
それに対して日本は、
繊細さと感覚、そしてバランスという
彼らにはない武器で勝負できる。
葛西(紀明)があの年齢(今月6日で44歳)で
いまだに世界の第一線なのは
ヨーロッパの選手にはない、アレンジ力があるからです。
ダーウィンの進化論のように、
環境に合わせる能力があるから、
ルールや用具などの条件が細かく変わるこの競技で
生き残っている。
これが日本のジャンプの強さの源です。
ヨーロッパでは今、日本選手の人気がとても高いんです。
日本人がそれを一番知らないかも知れない。
なぜ人気があるか、
それはヨーロッパにはないオリジナリティーを、
観衆が感じているからです。
スピードやパワーではなく、緻密な技で飛んでいく、
そんな"日本らしさ"に魅力を覚えているんです。
これから世界に出ていく若い選手たちも
そんな"日本らしさ"という武器を磨くことを意識して欲しい」
合宿の締めくくりに、
横川コーチが選手たちに伝えた言葉は
「守って、破って、離れていきましょう」だった。
守破離(しゅはり)―。
語源は諸説あるが、
武道や茶道など、日本伝統の「道」における修行の段階を表す言葉。
守:まずは指導者に言われたこと、型を「守り」、身につけ、
破:その型を自分と照らし合わせ、より自分に合ったものを作り出すことで
既存の型を「破り」、
離:理解が深まることで型から「離れ」、自在となる
ソチで復権した日本ジャンプ界は、
その自信を糧に、新たなステージに向かっている。
継続的に世界に伍して戦う力、
すなわち「裾野=ジュニア年代」の能力向上だ。
日本の強みである「ジャパン・オリジナル」を
浸透させるキーワード。
日本人の精神に根差した言葉として
横川コーチが、恐らくあえて選んだであろう、
この「守破離」が、それに当たるのかも知れない、と思った。
...すいません。白状します。
「守破離」の意味は、
横川コーチに、噛んで含めるように
丁寧に教えていただきました。
いい年こいて浅学な私に
終始穏やかに解説いただき
ありがとうございました。
今後、胸に留め、精進いたします。