希望のともしび
「彼方に見える、20年ぶりの悲願、オリンピック出場。
その希望のともしびを灯し続けるための戦いが始まります」
歩きながら、中継冒頭用のコメントが頭に浮かんだ。
もちろん、あくまで架空の中継だけど。
こういう仮想実況をしながら歩くのは、
子どもの頃からの、至上の悦楽。
しかもこの日は、歩いた先に、
ホンモノのしびれる戦いが待っている。
胸の奥から込み上げてくるものをかみしめながら
向かったのは、月寒体育館。
アイスホッケー男子・平昌五輪2次予選。
4か国総当たりのリーグ戦で、
1位のチームだけが最終予選に進出。
開催国として予選免除で出場した98年の長野以来の
五輪出場を目指す日本男子にとって、
一つの負けは、即「終戦」を意味する、
事実上のトーナメントである。
格下のクロアチア、ルーマニアを順当に下し、
2月14日、迎えた最終戦。
相手は、ともに2戦全勝のウクライナ。
まさに、勝った側の希望のともしびの灯は残り、
敗れた側は、その瞬間に、消える。
どうしても、その戦いを、目に焼き付けたい。
前日の13日、ルーマニア戦を会場で見たときから
心は決まった。
吸い寄せられるような魅力が、そこにあった。
国を代表しての戦いは、
どんな競技にも理屈を超えた面白さがあるのだが、
それだけが理由ではなかった。
アイスホッケーという競技そのものが放つ魅力である。
2009年、廃部が決まっていたSEIBUアイスホッケー部の
最後の戦いを釧路で取材して以来足を運んだ
アイスホッケーの現場。
ある程度の観戦イメージは持っていたが、
久々に見た「ナマのアイスホッケー」は
こちらの想定を超えるインパクトで
目に、脳に飛び込んできた。
少々のルールがよくわからないなんてことは
全く持って気にする必要はない。
パワー、スピード、テクニック。
そして五輪をかけているというスピリット。
リンク上から放たれるそのエネルギーに
自然に身を委ねれば、
極上の興奮が身体の中に入ってくる。
「テレビ観戦より、生観戦のほうが数段面白い」
と長らく言われている競技ではあるが、
これほど素直にそれを実感したのは、
久々の「衝撃」だった。
会場近隣の駐車場は、
釧路、室蘭ナンバーの車が目立った。
アイスホッケーを育んできた地域のファンも
この大会に賭けていたことが伝わった。
打ち振られる日の丸。
ピンチ、チャンスのときに、天井を揺るがす声の塊。
その熱気も、猛烈に観戦モードを上げていく。
第2ピリオドまで両チーム無得点。
日本のほうがキルプレー
(反則による退場で数的不利になる時間帯)が多く、
体格面で上回るウクライナのパワーに苦しめられながらも
スピードと集中力で対抗する、息づまる展開。
胸の鼓動と、深呼吸と、ちょこちょこ口をつく実況フレーズを重ね、
迎えた第3ピリオド6分19秒、
日本が待望の先制点!
当然ながらスピードについていけず、得点シーンは撮れなかったので
直後の場内の様子と...
電光掲示板と...
翌日の北海道新聞夕刊に載った写真で
雰囲気をお察しください。
その後もう1点を加えた日本は
終盤のウクライナの執念の攻撃を1点でしのぎ、
全勝対決を制して最終予選進出。
希望のともしびは、消えることなく、
少しだけその灯(ひ)は、大きくなった。
「ああ、いいもの観たなあ」
そんな満足感に浸れる幸せを感じつつ、
同時に思った。
北海道の放送局でしゃべりを生業にする者として
この競技にもっと目を向け、もっと発信することに
責任を感じるべきである、と。
それだけの魅力と価値のある競技なのだから。
最終予選は、9月、ラトビア。
世界ランキングで格上の3か国を相手に、
(ラトビア=10位、ドイツ=13位、オーストリア=16位、日本は20位)
これも、リーグ戦1位が条件。
少しでもともしびが大きくなるよう
一本の薪をくべるような思いで
彼の地に、祈りとエールを送ろうと思う。
メディア用に配布された
日本代表チームを紹介する資料の表紙に書かれた言葉を
心に刻んで。