縁の下からの向かい風
「もう冬ですよね~この寒さは」
選手ですらそう口にする、
10月も末の宮の森ジャンプ競技場。
とはいえまだ雪が積もっているわけもなく、
アプローチのレーンは人工的に凍らせてあるものの、
ランディングバーンやブレーキングトラックは、
夏仕様の人工芝のままだ。
「ジャンプシーズン到来!」というには少々違和感はあるが、
10月31日に全日本選手権ノーマルヒルが開催される
宮の森で、懐かしい顔を見かけた。
エプロン姿も愛らしい彼女は
小浅星子さん。
山形県米沢市の出身。
まだ女子のナショナルチームが結成されていない
女子ジャンプの黎明期から競技に取り組み、
大学入学を期に北海道で活動し、長らく第一線で活躍。
155センチの小さな身体ながら、
力強いテイクオフが持ち味で、
国内では上位入賞の常連。
ワールドカップでも10位台の成績を残した。
膝の大けがに苦しんだり、
大学卒業後、様々な職業を経験するなど、
決して平たんな道のりではなかったけど、
「とにかく飛ぶことが好き!」という気持ちにあふれ、
まっすぐに競技に向き合っている印象の選手だった。
2013-14シーズンは開幕からワールドカップメンバーに選ばれ、
成績次第ではソチ五輪出場のチャンスを得たが、
惜しくも夢かなわず、そのシーズン終了とともに現役を引退。
10歳から始めたジャンプに、別れを告げた。
引退後、彼女が選んだセカンドキャリアは
スキーワックスメーカー。
「選手の経験を生かして、
ジャンパーたちをサポートしていきたいんです」
と北海道を離れ、会社のある仙台に渡って2年目。
今回は大会に参加する
女子選手たちのスキーのワクシング担当として
久々に札幌にやってきた。
選手たちと会話する姿は、
現役を離れて日が浅いからこその和やかな雰囲気。
「営業、広報、いろいろやってますけど、
ワックスはまだまだ見習いです」ということだが、
「スキーがよく滑れば気持ちよく飛べる。
選手のときの気持ちを大事にしながら勉強します」
板に向かっている姿は、
現役のころのまっすぐさそのままだ。
どのスポーツでもそうだが、
競技者だった人が現役を去り、
様々な面から競技をサポートする役に回る。
そんな循環が幾重にも重なって、
多くの「縁の下の力持ち」の元選手たちが増えることで
豊かな競技環境が作られていく。
歴史の重みとは、つまりはそういうことだ。
小浅さんのような存在は
まだ歴史の浅い女子ジャンプが
「骨太」になっていく上で、とても貴重なことだと思う。
「星子」という名前は、
「星を見て心が和む人がいる。小さな輝きでも放って、
周りの人の心を和ませるように」
という願いを込めてお父さんがつけたそうだが、
和ませるだけじゃなく、ジャンパーを助ける「向かい風」を
力強く送ってくれる存在に、これからなっていくだろう。
女子ジャンプ界の「縁の下の力持ち」ならぬ
縁の下からの向かい風」を、これからも吹かせてくださることを
期待いたします。