人間万事塞翁が馬 されど...
自分には全く可能性のないこと。
だからこそ、
「プロ野球選手」へと人生が変わる
その瞬間に立ち会ってみたい。
他人の人生をのぞきこむ、わずかな罪悪感を心の片隅に芽生えさせ、
10月22日。プロ野球、新人選手選択会議、
いわゆる「ドラフト」の日に訪れたのは、
豊平区の北海学園大学。
投げて最速148キロのサウスポー。
打っては1年春から4番打者。
50m走5秒9、遠投120mの身体能力を誇る
川越誠司選手が、指名の瞬間を待っていた。
最終学年の今年はケガに泣きほとんど公式戦に出場せず、
「拾ってくれるかな、ぐらいのイメージ。
指名されなかったら、こんなに(会見場に)来てくれている人に
何ていったらいいかと...」
という、控えめな本人の想像をいい意味で裏切り、
西武が2位で指名。
本人も、周囲も驚く上位での指名で、
北海学園大学野球部、創部65年で史上初のプロ野球選手が誕生。
会見場は一気に熱を帯びた。
投打に伸びしろのある選手といわれているが、
西武は、大学3年時から本格的に取り組んだ
投手として期待しての指名とのこと。
「中継ぎか抑え、短いイニングで力を出すのが向いていると思う。
(試合の)後ろをしっかりと任されるようになりたい」
と、プロのマウンドでの自分のイメージを口にする。
セパ4球団から調査書が届いていたとのことだが
「正直、パリーグだったらいいなって思っていたんです。
ファイターズがあるから、北海道に帰って来られるじゃないですか」
生粋の道産子らしい本音ものぞかせつつ、
仲間たちの胴上げで歓喜の時間も最高潮に。
熱気がひと段落したところで、彼はしみじみと語った。
「全く予想してない人生ですね。
そもそも高校で野球はやめるつんもりだったんです。
父と同じ消防士の道に進もうと試験を受けたけど落ちてしまって、
大学に行くことになったし、
大学にプロ目指して入ってきたわけでもない。
ピッチャーだって、高校のときにボコボコに打たれて
"失格"になってますからね。
指名される日が来るなんて、思ってもみませんでした。
こんなこともあるのか...って思います」
人間万事塞翁が馬のことわざそのままのようなストーリー。
だが、それだけではないとも思う。
大学で打撃投手を買って出ていたことが
投手をするきっかけとなり、
「自分の支え」という筋力トレーニングを地道に継続することで
パワー、スピードが飛躍的に向上して
プロへの道が開かれた。
浮ついたところのない話しぶりに
「今、自分ができること」に真摯に取り組んできたであろう
これまでの道のりが想像できた。
運命には、根拠があるのだ。
別れ際に「ファイターズ戦のグラウンドで会おう」
と言葉をかけ、名刺を手渡した。
本人はケガの回復を優先し、まずはリハビリから、
という青写真を描いていて、
そう早く実現するかはわからないけど、
彼がマウンドに立つときには、相手チームの選手であっても
札幌ドームからは万雷の拍手が起きるだろう。
「消防士には縁はありませんでしたが、
そのことがプロ野球選手へのきっかけとなった
川越誠司投手。
きょう、ライオンズの"火消し"を担うリリーバーとして
故郷・札幌マウンドに立ちました」
と実況できるその日を、待ちわびたいと思います。