花は咲き続ける
グラウンド上での汗と熱気とは対照的に、
舞台裏では芳しい香りと、心を癒す鮮やかな色に包まれるのが
この時期の札幌ドームの風物詩。
ファイターズのクライマックスシリーズ進出や
シーズン最終戦などを祝して、
あるいは引退する選手へのねぎらいを込めて、
贈られてきた多くの花が飾られる。
レギュラーシーズン本拠地最終戦の10月1日。
この日は中嶋聡・捕手兼バッテリーコーチの
引退のメモリアルゲーム。
本人の希望で、事前の引退発表は行われず、
来場したファンには
試合後の挨拶で栗山監督が発表した形になったが、
ロッカーの周辺には
他球団に移った後輩選手や
ともに汗を流した球界の先輩などの名で
多くの花が届いていた。
実働29年プレーした46歳。
「阪急ブレーブス」最後の選手である。
強かった阪急の時代をリアルに見ていた同世代の者としては
「最後」という言葉が、なんとも感慨深く響く。
捕手という、けがもしやすく、体力を使うポジションで
これだけ長い間、現役選手であり続ける。
気の遠くなる、時間の長さと密度だ。
中日の山本昌、谷繁も現役引退を発表し、
これで、「昭和」のドラフトで入団したプロ野球選手はいなくなる。
昭和は遠くなりにけり―。
自分が一番楽しく、プロ野球を観ていた証が消えていくような、
一抹の寂しさを覚える。
どれほど美しく、可憐に咲く花でも
永遠に咲くことができないのと同じように、
いつか必ず、枯れて、朽ちるときはやってくる。
だからこそ、瑞々(みずみず)しく咲いている最中は
その花の個性を、目に、記憶に、焼き付けようといつも思う。
その連続が、スポーツを「観る文化」を醸成し
何より、豊かな気持ちにさせてくれるのだから。
中嶋選手宛てに届いていた花は、
華やかな色合いのものばかりだったが、
選手としての印象は、その逆。
地味だけど、たくましく咲き続ける花だった。
出身地・秋田県の県の花は、ふきのとう。
厳しい冬に耐え、雪解けを待ちかねたように咲く。
それゆえに、観る人のこころに和らぎを与える。
そんなイメージが、胸に残る。
「何の悔いもない野球人生でした」
ここまで明言できるのは、何ともうらやましい。
次のステップに進んでも
花はこれからも、たくましく咲き続けるでしょう。
お疲れ様でした。