千里の道も
いつも醸し出す、ふんわりとした空気はそのままに。
しかし同時に、まっすぐに、真摯に、
自己の内面と向き合いながら、
言葉を選んで話す姿勢もまた同じ。
そして今回は、何度も繰り返した
「今までの積み重ね」という言葉に
アスリートとしての揺るぎない信念と、
それを実行してきたという自信が浮かぶ。
陸上競技、女子短距離の日本の第一人者、
福島千里選手。
8月22日から北京で始まる世界選手権を前に
話を聞く機会があった。
十勝の幕別町出身。
幼き頃、広大な畑の中に伸びる一本道で
走る楽しさに目覚めた彼女の、
アスリートの原点に触れる特別番組の制作を担当したことがある。
当時のブログ記事↓
https://www.tv-hokkaido.co.jp/announcer/daito/2011/11/post-34.html
「あの子はね、十勝の大地のような子ですよ。
まっすぐ、のびのび、自分の道を行く」
彼女の才能に早くから気づき、
その成長を促してきた師、
中村宏之・北海道ハイテクAC監督の言葉は
そのまま、番組のテーマを表現していた。
2008年4月に、11秒36の日本タイ記録をマークし
彗星のように頭角を現すと、
20歳で、女子100メートル56年ぶりの五輪日本代表。
以降、100、200メートルで日本記録更新、
アジア大会で両種目を制して「アジア最速女王」に。
番組の取材は2011年、世界選手権(韓国・テグ)で、
日本女子として初の両種目での準決勝進出を果たした後の秋。
まさに、躍進の只中にいる時期だった。
その後、記録や成績の上では「足踏み」と評される時期に入る。
国内では無敵。しかし、ロンドン五輪は予選落ち。
アジア大会でも無冠に終わり、
日本記録も5年更新されていない。
今年は春から日本記録に迫るタイムを連発し、
7月のヨーロッパ遠征では
海外での日本女子最速となる11秒25を出すなど、
内容のあるレースが続いている。
「記録はいつ出てもおかしくない。
過去2度の五輪、3度の世界選手権と比べても
最も状態はいい」と中村監督も太鼓判を押す。
「停滞から、復活へ」
そんな位置づけをしようとする質問に対して
彼女はしかし、きっぱりと言った。
「(日本記録を出した)5年前のほうが、
記録としてよかったとしても
積み重ねをしていない昔のほうがいい、なんてことは絶対にない。
戻れない時間を積み重ねてきた今のほうが
絶対いいに決まってます。
2010年には絶対に持っていなかった
あの時から5年分の経験が、今の私にはあります」
「いいときがあったから苦しんでいるように見える。
今がいいから、苦しんでいたように見えるでしょうけど、
私は、そんな区切り方をしていません。
どの時間も、今につながる時間です。
ずっと継続してきたから、今の私がいるんです」
画一的な枠にはめられることに
柔らかく、しかし毅然と抗う。
濃密に自分と向き合ってきたというプライドが伺える。
「100%ではなく、120から130%の力が出せる状態で
北京に向かいます」
気負いなく、充実ぶりを口にして、
ひととおりの会見が終わったあと、
機を見て行っている、子どもたちへの陸上教室の話になった。
「足が速くなる方法より、
続けていく方法を教えることを教えることですよね。
積み重ねが、一番大事ですから」
そこにも、ぶれはなかった。
その名の通り
「千里の道も一歩から」踏みしめて、
前人未踏の道を走る福島千里選手。
これからも、のびやかに、しなやかに疾走る姿を
見つめていきたい。