季節外れの「晴れた日の雪原を渡る風」
ここ数日の札幌は
春を飛び越え、初夏がいきなりやってきたような陽気。
ついこの前までは、雪を踏みしめながら歩いていたのに。
こんな心地よい暖かさに包まれていると
風雪に晒される中取材した
大倉山ジャンプ競技場や白旗山距離競技場での
あのときを懐かしく思い出す...
わけではないのですが、
3か月前に放送した
「FISワールドカップ ノルディックコンバインド札幌大会」。
とても大切な時間として心に刻まれています。
この大会に出場した
加藤大平選手(サッポロノルディックスキークラブ・和寒町出身)と
競技委員長を務めつつスタジオの解説もしていただいた
阿部雅司さん(東京美装・小平町出身)のお二方と
先日、お会いする機会がありました。
1994年、リレハンメル五輪団体金の阿部さんと
2009年、世界選手権団体金の加藤選手という
ダブル金メダリストと、贅沢な時間を過ごすことができました。
ジャンプとクロスカントリーという、
全く性質の違う種目で
雪原の王者を競う過酷な競技・ノルディックコンバインド。
時に理不尽な自然のいたずらとも向き合わなければならない
この競技で、
長年日本をけん引する加藤選手の言葉が
印象に残っています。
「僕は、コンバインドをやっていなかったら、
もう今は現役はやっていなかったんじゃないかと思うんです。
コンバインドって、やることがいっぱいあるんですよ。
当たり前ですけど、ジャンプと、クロスカントリーと両方やるから。
例えばジャンプだけだったら、
1日の中でジャンプ競技に必要なことって、限られますよね。
コンバインドをやっていると、それをやった上で、
クロスカントリーのために必要なことをする。
その時間の使い方があるからこそ、
まだ僕は現役でいられるような気がするんです。
どちらかだけしかやっていなかったら...
時間が間延びするというか、緊張感が保てないというか、
そんな感じになって、競技への情熱が冷めてしまったんじゃないかと
思うんです」
「アスリートって基本的に負けず嫌いの塊ですから、
負けは簡単に認めたくない。
その気持ちがあるから、次の試合に向かう闘争心が湧く。
ジャンプで、もうひと伸びがなかったときに
『風がもう少しよければ』ってよく言う人がいるのも、
その気持ちの表れの一つではあると思うんですけど、
でも、本当に強い選手は、
『風のせいだ』って言わないです。
それは、"言い訳したくない"とかっていう、
精神的な理由とも違うと思います。
風が不利な状態でも、こうすれば距離を伸ばせるという、
技術的な根拠が、その人にはあるんです。
自分の中で解決できる課題なんです。
だから『いい風が来ていたら』なんていう
自分の力ではどうすることもできない
仮定の話をする必要も、悔しがる理由でもない。
そう僕は思います」
僕はジャンプが得意で、
今ならワールドカップのどの試合でも、
普通に飛べばトップ10以内に入る自信があります。
でも、そこから上の、トップ3とかトップに立つとなると、
風の力を借りないと厳しい、と感じています。
だから、そんないい順位になったら
『いい風もらいました』って言うと思います。
逆の意味で『風のせい』っていうことですから。
『風のせい』とか『もう少し風をもらえれば』って
よく言っていた選手が、最近言わなくなったなと感じたら、
その選手が技術的に進歩した、
って考えていいんじゃないですかね」
現役選手から、取材する際のヒントまでいただき、
楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまいました。
浮かれてしまい自分のほうがよくしゃべってしまって、
もっと深い話を伺うチャンスを逸してしまったと、
自戒もしておりますが。
発祥の地にして本場である欧州では、
コンバインド選手は
「冬空を舞う鳥のように翔び、雪原を駆ける鹿のように走る」
と表現されるそうですが、
お二方とも、世界の頂点に立ったことがありながら、
「晴れた日の雪原を渡る、心地よい風のような」
謙虚で柔らかな人柄。
ますますこの競技が好きになりました。
昨年のソチ五輪で、20年ぶりにメダルを獲得した
日本のコンバインド。
2018年の平昌で更なる躍進を祈りつつ、
冬のスポーツに携わる人たちを
きちんと見つめていく
北海道の放送局のアナウンサーとしての責任を
これからも怠りなく果たしていかなければと、
初夏のような陽気の中で、最確認しました。
加藤選手、阿部さん、
貴重な時間をありがとうございました。