ビッグファイトin「私学教育研修会」
講演台という一段高いところで
否応なく多くの視線にさらされながら、
振り絞るように言葉を発する。
そのときに起きる聴く人の微妙な反応は
悲しいぐらい敏感に胸に刺さる。
「ああ、今のあの人のうつむきで落ち込みそうだ」
「いやいや、今のあの人の表情であと10分は頑張れる」
その感情の動きは
「白い自分」と「黒い自分」という二人のボクサーが
頭の中というリングで
壮絶なパンチの応酬を繰り広げるようだ。
故に、終わって控室に戻ると
声を出し続けた体力的なもの以上に
頭の中が汗びっしょりになったような
精神的な疲労と高揚感に襲われる―
タイトルマッチを終えたボクサーのように。
これが「講演」の類のお仕事をしたときの
お決まりのパターンです。
此度のファイトは、
とびきり激しくパンチが飛び交いました。
先日
「北海道私学教育テーマ別研修会 札幌大会」の
全体講演をさせていただきました。
てっとり早くいうと、
道内の私立の高校の先生方が
様々なテーマについて研修を行う集まりがあり、
その最初に行う講演を仰せつかったのです。
テーマは「コミュニケーションを高めるために」。
6月ぐらいに最初にお話をいただいたとき
これは「ビッグマッチになる」と直感しました。
聴衆は現役の先生たち。
いわば「コミュニケーションのプロ」たちを前に
その人たちの「学び」の足しになる話をしろ、
というのです。
中学生のときに「3年B組金八先生」に夢中になり
教師という「聖職」の重みが強烈に胸に焼き付けられ、
大学時代に塾講師のアルバイトを通じ
1コマの授業を無事やり遂げることが
いかにエネルギーを使うものかを体感した者にとって
この要求は相当に高い。
当日は、頭の中で
強打と高い技巧を併せ持つチャンピオン同士が
息をもつかせぬ攻防を繰り広げるに違いない。
そう確信しました。
当日。
「アイ・オブ・ザタイガー」
(=「ロッキー3」のテーマソング)
「死亡遊戯のテーマ」(=辰吉丈一郎選手の入場曲)
「Hold Your Last Chance(長渕剛)」
(=元WBA2階級制覇・戸高秀樹選手の入場曲)
などが体内でエンドレスリピートされる中、会場入り。
ひきつった笑いになるのを悟られないように
いつも以上に顔面の筋肉を柔軟にして
自分の名前を呼ばれるのを待つ。
会場は、ホテルの広間。
講堂などと違って
照明ばっちりで、約100人の参加者の表情が丸わかり。
しかも「研修会」なので
各参加者に机が割り振られていて、
ご丁寧にメモをとる準備まで万端。
表情のみならず、ペンを走らす動きまでが
強烈なカウンターパンチとなって
わが身を襲う。
午後2時過ぎ。闘いのゴングが鳴った。
まずは軽く自己紹介から。
「私のこと、テレビで見たことある方は
どれぐらいいらっしゃいますか?」
フットワークを使って探りを入れてみる。
手を挙げたのは半分以下。
いかん、相手のパンチの強さは想像以上だ。
一発でダウンにつながりかねない。
話が進んでいく中で
踏み込んで強いパンチを放ってみる。
打っては距離を取り、また様子を見てステップイン。
攻防が少しづつ白熱してくる。
笑ってくれるはずの渾身のコンビネーションを放つ。
かわされた!ディフェンスも固いぞ。
中盤から終盤。
もう小細工をしていては戦えない。
Stand and Fight(=踏みとどまって戦え)
ノーガードの打ち合いだ!
一発一発が響くぜ!
己の言葉をSoul Box(=魂を込めた拳)にして
最後まで手を休めるな!
約2時間後、試合終了のゴング。
リング中央で抱き合う両者。
勝者も敗者も、そこにはいない。
心地よい汗が、背中をつたう...
おいおい、肝心の話の内容はどうだったんだ!
いやいや、
「コミュニケーションを高めるために」って
そんなスラスラと話ができるような
簡単なテーマじゃありません。
会場にいらっしゃった先生方の
日々の学校でのお仕事に
どれほどお役に立つ話であったかは
甚だ自信はありませんが、
こうして
「相手のこころと格闘しながら、
言霊をぶつけていく」のもまた
コミュニケーションのための
基本的な心構えなのでは...
と思っていただければ幸いです。
会場を後にするとき
外はもう夕暮れが迫っていました。
頬に当たる風の涼しさを感じながら
頭の中に流れていたのは、この曲でした。
「あしたのジョー~美しき狼たち~」(おぼたけし・1980年)
燃えたよ...真っ白にな。