クール・サッポロ
「皆様が何か落とし物をしても、
きっとそれは戻ってきます。
お金の入ったお財布でも、昨年1年間だけでも
3000万ドル以上も現金が落とし物として
警察に届けられました」
去年9月、五輪開催地決定前の
東京の最終プレゼンテーションで
滝川クリステルさんが
世界に向けて発信した
あの名スピーチの中の一節です。
迂闊にも、小銭入れを落としました。
初めてではないのが情けなく、
また、初めてではないがゆえに
「きっと出てこないだろう」と割り切るのも
早かったように思います。
購入して1年余り。
まだ思い出がたくさん詰まっているわけでもないから...。
けっこうこじつけました。
2日後。
「やるだけのことはやろう」と思い立ち、交番へ。
「該当するようなものは、届いていませんねぇ」
まあ、そうだよな。
そうだよ、そうだと思ったんだよ。
湿った雪を踏みしめ、足取り重く、
地下鉄駅の事務所へ。
「こちらでは該当するようなものはお預かりしていませんが
大通駅の事務所のほうへ、問い合わせてみますね」
でも、結局、ないんだよな。
そうなんだよ。届いてないんだよ。
問い合わせの間、もう一人の自分が言い聞かせている。
「その時間帯に届けられたものが何点かございますので
事務所まで行くことはできますでしょうか?」
まあ、時間がないわけじゃないし、
結果だけは見届けようじゃないか。
「お問い合わせされた内容と一致するかは
わかりかねますが、
届いているのはこちらになります」
まごうことなき
ああ、愛しの我が小銭入れ。
まさかまさか、またわが手に戻ってくるとは。
もちろん中身も、まったく落としたときと変わっていない。
これは奇跡と呼ぶべきなのか。
頭の中に真っ先に浮かび、
今も離れない一言は
「ありがとう」
顔も名前もわからない御仁に
この場を借りてお伝えします。
本当に、届けていただき、ありがとうございます。
冒頭のプレゼンコメント、
耳にしたときは
「間違いではないけど、
そう頻繁に出くわすことでもないよな」
と思っていました。
実際に当事者になってみて
なんと幸運なことか、
なんと幸福なことかと身にしみています。
そして身にしみているからこそ言えます。
ニッポンは、サッポロは
「クール=カッコいい」ぜ。
「寒い」という意味だけじゃありません。