会社魂のたましいVol.23 金森商船(函館市)
夏の函館―。
道外に住んでいたころから憧れの地、
そして、道内に住んでからも、期待を裏切らない場所である。
爽やかな空気、風が運ぶ潮の香り、
空と海の碧さと深い緑のコントラスト…
書いているだけで、心地よさが思い出される。
この快感に欠かせない風景が、
港を彩る、赤レンガの倉庫群だ。
その歴史は、大分出身の
渡邉熊四郎という人物に始まる。
箱館戦争の終結を
函館山の中腹から見つめていた熊四郎は
旧幕府軍が
西洋の最新式の武器で武装した
新政府軍に屈するのを目の当たりにし
「これからは西洋の文化の時代だ」
という思いを新たにし、
西洋洋品を扱う店を開業。
熊四郎は更に、
事業を進める上で倉庫の必要性を強く感じ、
既に本州の財閥資本で建設されていた倉庫群を買い取って
函館で初めて営業倉庫業を始めた。
曲尺に「森」の屋号は
港の賑わいが増すごとに
函館のシンボルとして定着していく。
転機は、バブルの時期。
北洋漁業や造船業の衰退、
輸送形態の変容などで危機感が募る中
「商業施設への転換」に打って出る。
全く異なる業態への転換。
老舗の生き残りをかけた決断だった。
レンガ造りの倉庫を商業施設にするアイデアは
他の港町でも見ることができるが
函館はその先行例にして、
成功例として認知されている。
その要因はどこにあるのか。
道内有数の観光地・函館で
商業施設を運営する、となれば、
当然その目は、
道外観光客に向けられているかと思ったが、
渡邉兼一社長は明確に答えた。
「転換したときから一貫して
地元の方に来てもらうことが最優先なんです」
「『自分たちが行きたいと思わない』施設を
観光客に勧めるはずはないですよね。
『あそこはいいよ。行っといで』と
地元の同業者の方が
そう言ってくれる場所にならなければ、
どんなに華やかな施設にしても、未来はない。
バブルの頃に転換したので
様々な“誘惑”もあったのは事実ですが、
地元の信頼を重視するという姿勢は
倉庫業時代から一貫していると思っています。」
学校帰りの女子高生の集団に聞いてみた。
「仲良しの友達の誕生日プレゼントとか
ここに買いにくる」
「ここにくれば
なんかいいもの見つかるかもって
“抑え”って感じで来る」
屈託のない表情の彼女たちから発せられたのは
渡邉社長の思惑が形になっていることを証明する
立派な褒め言葉であった。
街の中で“浮いた”存在になることなく、
市民の日々の生活の中にある。
それは、観光施設の最大の強みなのだと思う。
オープンカフェでアイスコーヒーでのどを潤す。
(仕事中なのでビールというわけにはいかなかった)
あの快感は、その空間が
夏の函館の持つ魅力を
等身大に表現しているからなのだろうと思った。
今度は是非、プライベートで、
あの場所で、ビールをあおろう。
いや、もうちょっと洒落て、
グラスを傾けよう。
「金森商船」の会社魂は
7月21日の「けいざいナビ北海道」で。