会社魂のたましい⑳ オーディンフーズ(函館市)
「オーディン」とは、北欧の神話に出てくる神のこと。
「全知全能の神」に会社の将来像を重ねたという。
そのトップに立つ人物は
この神の名にふさわしいカリスマ性を全身から漂わせていた。
その人、長谷川英直会長は、
日本の戦後流通業の「歴史の教科書」に載る人物、
と言われている。
1970年代後半、
千葉・津田沼駅前を舞台にした
俗にいう「津田沼スーパー戦争」。
その勝者に名を刻んだ
イトーヨーカドーの当時の店長なのである。
その後、故郷・森町に近い函館で
1990年より、宅配ピザ業界に参入。
「どうすれば客の求めるものを提供できるか、
どんな商品がいいのか、それをいくらで出せるのか、
そのためにはどういう組織・システムを作ればいいか、
ヨーカドー時代に徹底的に勉強したことを
ピザ業界に生かした」
現在は全国に店舗数は約120店で業界3位。
東京、大阪などの本州の大都市圏に進出せずにこの数字。
目指すは函館からの「天下取り」である。
「函館は本州から渡ってきた人たちと
貿易のために来た外国人が
垣根をつくらず渾然一体となった街が作られ、
その中で独自の文化が育まれてきた。
食についてもそう。
この街に拠点を置くことは、
いいバランスで今後のための情報収集になっているんだ」
「戦国の世も、明治維新も、みんな地方から始まっている。
地方を制し、そこから『上って』天下を取る。
今までの歴史が証明しているじゃないか」
明快に、気負いなく話す。
いうまでもなく、ピザは外来の食文化。
特に宅配ピザというシステムはアメリカの文化である。
個人的体験だが、
若かりし頃、このシステムに初めて触れたとき
都会への憧れが一気に高まった気がした。
そこではいくつかの「?」も感じたのだが、
それも含めて、外から持ち込まれた文化のありがたみのように
とらえていた。
長谷川会長率いる
「10.4(テンフォー)ピザ」の特徴。
それは私がスルーした「?」に
手を加えることだった。
日本人が「おいしい」と感じる
日本人が「また食べたい」と思うピザは何か。
見た目、味付け、具材、生地。
“流通を制した”経験を生かし、
「日本人のためのピザ」を追求した。
当然、ビジネスモデルづくりも
自身の経験、
その根底にある「日本人の特性」を生かし
効率化を図った。
「日本人の最大の特徴は何か。
それは、基本スキルのレベルの高さ。
勤勉さや教育水準の高さもあり
一人で何役もこなせる能力がある。
そこを引き出し、生かすシステムにすれば、
コストが下がり、安くていい商品やサービスを
安定的に提供できる。
外国から『輸入してきた』先行のチェーン店のやりかたを
視点を根本から変えている」
明快に、シンプルに、
かつ、確固たる理論と理念を持って答え続ける
長谷川会長。
現在は
日本人に「受け入れられる」ピザから
日本人が「食べ続ける」ピザへ
新たな模索を行っている。
それが、形になったとき。
函館に
天下取りの狼煙が上がるのかも知れない。
満開の五稜郭公園の桜を見ながら
そんな思いがよぎった。
一枚のピザに込められた
ビジネスの奥深さ。
「オーディンフーズ」の会社魂は
6月2日の
「けいざいナビ北海道」で。