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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

球児の春 実況ごころをくすぐる「彼」

相当量の花粉が飛び

鼻水やら目のかゆみやらと格闘されている方も多いという

本州からのニュースを聞くに及び、

確実に、春が迫っているのだなということは伝わってくる。

まだ雪が身近にある北海道での生活では

そうしたものは遠い世界ではあるが

先日「ああ、春だなあ」と感じる経験をした。

 

今年のセンバツ高校野球に出場する

北海高校を取材する機会があった。

ここまでの人生において

かくもスポーツと深くかかわる「窓」となり、

今も自分の身体の奥に染み込み

その時期となれば何かと心をざわめかせてくれる高校野球ではあるが、

残念ながら実際に現場で取材する機会は、そう多くはない。

野太い球児たちの声。

金属バットでボールを弾く音。

ファイターズの屋内練習場に響くそれらの音は

季節を進ませ、

こころを温めてくれる調べである。

 

それだけでも十分印象に残るのに

思いがけないインパクトを残してくれる選手がいた。

センバツでは背番号「15」を背負う

2年生の内野手である。

 

彼の主な役割は

勝負どころでの代打の切り札。

道内の大会でも、いいところで打ってきた。

その要因を聞くと

とても楽しいやりとりとなった。

 

 「ネクストバッターズサークルで

前の打者と相手投手との対戦を見ながら、

頭の中で“実況”をするんです」

 

「実況って、テレビやラジオでアナウンサーがやる実況?」

 

「ハイ。解説者もいます」

 

「解説者とのやりとりも頭の中でやるわけ?」

 

「ハイ。前のバッターへのピッチャーへの攻め方とか

次のバッターへの心理状態とか

アナウンサーと解説者が話すじゃないですか。

それを参考にするんです」

 

「話してるっていうのは、あくまで君の頭の中だけどね」

 

「ハイ。そうすると何か、落ち着いて打席に入れるんですよね。

以前の僕は、打ちたい気持ちが強すぎて、周りが見えなくなってしまうことが

多かったんですけど、実況しながら打席に入ると、

狙いダマが冷静に絞れて、思い切って打てるようになりました」

 

「そのアイデアは君のオリジナル?」

 

「いえ。以前WBCでイチローさんがやって打ったっていう話を聞いて、

じゃあ、自分もやってみようと思って」

 

 「ちなみに、君の頭の中の実況では

特定のアナウンサーとか、解説者はいるの?」 

 

「いえ。誰っていうことではなく、あくまでイメージですけど」 

 

「じゃあ、センバツでも打席が巡ってくることがあれば

甲子園で、誰かの声は、君の頭の中では聞こえてるんだね」 

 

「そうなりますね」

 

野球に限らず

スポーツ実況の本質とは

視聴者の方に状況を理解してもらい、

次に起きるであろうことを予測する材料を示すことである。

適切な材料があれば、

想像は膨らみ、興味が増し、

試合に入り込むことができる。

そしてその想像が当たったときの痛快な気持ちは

スポーツへの関心を更にくすぐっていく。

 

その点でいえば、彼の「打席に入る前の架空実況」は

野球実況の本質をついたものだ。

的確な予測をするための材料として使われる

彼の頭の中で繰り広げられている実況は

見ている人の肚に落ちる、心地よいやりとりなんだろうなあ、

 と想像できる。

 

ちなみに、彼が語ったイチロー選手のエピソードは

2009年の、あの韓国との決勝戦の延長10回に放った

決勝タイムリーの打席で実際にやったことだと

後に本人がインタビューで答えている。

心理学的には自己を客観的に認識する

「メタ認知」の手法として分類されると

語った方もいるそうだ。

 

打席へのアプローチの方法として

意味があることなので

“誰”の実況であるかはあまり重要ではないのだが、

実況というものを実際に生業としている者として

この言葉が頭をよぎる。

 

「君の打席を手助けするような、

そんな実況をやりたいんだよ。

君の頭の中に聞こえる実況は

僕の実況でありたいんだ」

 

高校生に言ってしまうと

気恥ずかしい思いがするので

青臭いその言葉は飲み込んだ。

 

彼―松本桃太郎くんが

甲子園で「ひとり実況」をしながら

打席に入るときは来るのだろうか。

その場面を見たとき

こちらも「ひとり実況」をしているに違いない。

そのころは、北海道の春はもう少し近づいているだろう。

 

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